「空家管理活用支援法人」とは

この記事を書いた人

行政書士・宅地建物取引士
横関雅彦

早稲田大学 政治経済学部 卒業

メーカー勤務後に独立して2009年に旅行会社を立ち上げる。
2015年によこぜき行政書士事務所を設立。
2016年からは法人で宅建免許を取得し不動産業を開始。

現在は相続を専門とする他士業と連携して空き家に関する仕事に従事。

障害福祉の分野に役立つ空き家の活用を模索中。

https://shogai.biz

日本全国で空き家(使用されていない住宅)が増加し続けています。

日本における空き家の増加には人口減少や高齢化に加えて、若年層の地方部から都市部への移住により地方部の家の空き家化といった原因があります。

こういった理由で増えている空き家は、安全面、衛生面、治安面、景観面などで地域社会に様々な悪影響が出始めています。

これを「空き家問題」といいます。(詳しくは『空き家問題とは』のページでご説明していますので、ご参照下さい)

適正に管理されない空家が周辺の生活環境に深刻な影響を及ぼしていること等を背景に「空家等対策の推進に関する特別措置法」が平成27年5月26日に施行されました。

空家等対策の推進に関する特別措置法の一部を改正する法律

「空家等対策の推進に関する特別措置法」では、空き家の考え方を定義した上で、その中でもとりわけ倒壊の危険があるものや衛生上有害となるような恐れがあるものを「特定空き家」と位置づけ、市町村が実効的な対策を講じることができるような規定がされてました。

このように「空家等対策の推進に関する特別措置法」での対応が着実に進む一方で、自治体から以下のようなさらなる制度改善の要求も出てきました。

  • 区域を絞って重点的な空き家活用の対策ができないか
  • 民間主体をうまく取り込むような空き家活用の仕組みができないか
  • 所有者による管理責任をしっかり強化すべき
  • 特定空き家になるもう少し前から対応ができないか
  • 特定案件に対しては災害時に緊急的に迅速な代執行ができるようにすべき
  • 空き家所有者の特定が効率的に行えるように行政や公益企業が保有する情報を一層活用できるようにする必要がある

こういった意見を踏まえて「空家等対策の推進に関する特別措置法の一部を改正する法律」が令和5年12月13日に施行されました。

改正法の3つの柱

改正のポイントは以下の3点を柱とするものです。

  • 特定案件になる前の段階から空き家の活用を進めていく
  • 悪化の防止策として管理の確保を進めていく
  • 特定空き家への対応をも強化して いく

本記事では改正法の一つ目の柱である「空き家の活用拡大」の対策としてつくられた「空家管理活用支援法人」いう制度を説明していきたいと思います。

「空家管理活用支援法人」とは

空家等管理活用支援法人は、空家等対策の推進に関する特別措置法において民間法人が公的な立場から活動しやすい環境を整備し、空家等対策に取り組む市町村の補完的な役割を果たしていくこと期待し定められた制度です。

例えば、京都市では、特定非営利活動法人、一般社団法人、公益社団法人、一般財団法人、公益財団法人を対象に、空家等管理活用支援法人を指定して、「京都市地域の空き家相談員」をはじめ、建築や法務等の専門家等と、相談窓口の運用、相談会の開催、空き家活用・流通支援専門家派遣制度、おしかけ講座、空家等の調査などの取組を進めています。(京都市ホームページ:空き家対策総合案内

京都市:空家等管理活用支援法人の指定について

「空家管理活用支援法人」がつくられた背景

それでは、なぜ「空家管理活用支援法人」という制度がつくられたのかを理解するために、その背景をご説明したいと思います。

空き家の所有者の現状

空き家の取得経緯・所有者の居住地との関係・所有者の年齢

国土交通省の令和元年空き家所有者実態調査では、空き家の取得経緯として、過半数以上が相続をきっかけに取得していると回答しています。

空き家となったものに対策を講じる必要はありますが、空き家になる前の段階から意識の啓発や空き家にならないように所有者が早期に活動するための支援措置なども重要です。

これには、税制や様々な周知活動を通じて空き家の発生を抑制することも必要です。

空き家の所在地と所有者の居住地の関係では、空き家から離れているところに住んでいる方が多いことがわかります。

さらに空き家所有者の6割以上が65歳以上となっており、空き家所有者の高齢化も進んでいます。

空き家から離れて住んでいる上に高齢になってきた空き家所有者が、自分で空き家を管理することが難しいくなっているということが大きな課題となっています。

空き家所有者の空き家の利用意向

利活用に向けた具体的な活動状況

それでは、自分で空き家を管理することが難しいくなっている空き家所有者が増えている現状の中で、空き家所有者は今後空き家をどのように利活用していこうと考えているのでしょうか。

国土交通省の令和元年空き家所有者実態調査では、所有者の約3割が「そのまま空き家にしておく」と回答しています。

空き家所有者の2割超が賃貸や売却の意向をもたれていて、取り壊しを考えている方は13.2%となっています。

売却や賃貸の意向がある所有者であっても、実際に売却や賃貸に向けた具体的な活動は何もしていないという所有者が約4割となっています。

また 取り壊しの意向がある所有者の中で、取り壊し費用の用意は未定という所有者が約3割となっています。

つまり「売却するつもり」「賃貸に出すつもり」「取り壊すつもり」と考えていても、必ずしも行動に移せていない所有者も多くいる状況なのです。

空き家にしておく理由

空き家にしておく理由

なぜ、売却や賃貸をせずに空き家にしておくのでしょうか。

国土交通省の令和元年空き家所有者実態調査では、「物置として必要」という回答が6割以上あります。

また、「労力や手間をかけたくない」という回答も18.8%あります。

空き家には生前に使われていた生活用品がそのまま置かれているケースが多くあります。

こういったものを整理して別の場所に移すには手間や費用がかかるので、そのまま放置しているという空き家所有者も多いのではないかと思います。

「特に困っていない」という回答も24.7%あります。

約1/3の方が「住宅の質の低さ」と回答されています。

所有している空き家が古かったり狭かったりするために、売るのも貸すのも難しいだろうと判断して、そのまま放置されているという方もいらっしゃるのだと思います。

その他、さまざまな回答があるように、所有者ごとにさまざまな「空き家にしておく理由」があることがわかります。

空き家の所有者の管理状況

空き家の管理者、管理内容、所有者の居住地と管理頻度

それでは、空き家の所有者はどのように空き家の管理しているのでしょうか。

国土交通省の令和元年空き家所有者実態調査では、所有者や同居親族が管理していると回答した方が77.3%となっています。

ただ、その管理の内容は様々で、所有者自身もどのような管理をするべきなのかが分からないという方もいらっしゃると思います。

中には適切な管理をしていない結果、管理不全の状態になっている空き家もあると思います。

市町村の体制上の課題

市区町村における体制上の課題と第三者団体の活用

「どのように空き家を活用したらよいのかわからない」という所有者に対して、市町村が相談対応できれば良いのですが、6割以上の市町村が「担当部署の人員不足」や「専門知識の不足」が課題であると考えてます。(令和3年度「今後の空家等対策に関する取組の検討調査」結果)

このことから、空き家所有者に対するきめ細やかな対応をしていく上では、市町村のみならず市町村が相談対応などをアウトソーシングできるような環境も整備していく必要が出てきました。

そこで「空き家管理活用支援法人」という指定法人制度を新たに設けることになったのです。

「空家管理活用支援法人」の概要

「空き家管理活用支援法人」の概要

「空家所有者の空き家の利用意向」の項でご説明したように、空き家の所有者は空き家をそのままにしておく意向の方が多くいらっしゃいます。

将来的に空き家を賃貸や売却する意向を持っている方でも、賃貸や売却に向けて具体的な活動をしていない方が一定数いらっしゃいます。

この背景には以下のような原因が考えられます。

  • 空き家の活用や管理に対する意識が十分ではなく放置している
  • 空き家を活用する意志はあるが相談先が少なく買い手 や買い手が見つからないまま放置している

こういった原因を解決するために、市町村の行政側が所有者に働きかけを積極的に行い空き家対策を講じる必要があります。

ただ、行政の人手不足や専門知識を持った人材が少ないなどの理由で、十分に空き家対策を進めることが難しいという課題があります。

現在は空き家の活用や管理に関する 取り組みを独自に行っておりますNPO法人や一般社団法人などもあります。

例えば以下のようなNPO法人や一般社団法人があります。

  • 司法書士や弁護士などの専門家や不動産事業者などと連携して空き家所有者の相談に対応する
  • 必要に応じて不動産事業者などを紹介する
  • 空き家所有者から委託を受けて空き家の管理を行う

こうした活動を行う法人に対して、市区町村が公的な一致づけを与えることで円滑に活動できるようにし、所有者の空き家の管理活用の支援の一助となる制度として創設されたものが「空き家管理活用支援法人」です。

具体的には地域において空き家の活用や 管理に資する取り組みを行っているNPO法人、一般社団法人、一般財団法人または空き家の管理や活用を行うことを目的とする会社を「空家等管理活用支援法人」として市区町村長が指定できる制度が創設されました。

NPOがいないような地域では地域の宅建協会などもその担い手として想定されます。

空家管理活用支援法人は以下のような活動を想定されています。

  • 空き家の所有者の相談にのる。
  • 空き家の所有者と空き家の活用希望者とのマッチングを行う。
  • 委託を受けて空き家の管理や活用を行う。

また本人の同意が得られた空き家の所有者の情報は、市区町村から提供を受けることが可能になります。(※同意が得られなかった場合(所有者等の所在が判明していない場合を含む。)は、情報の提供ができないことを市町村から空家管理活用支援法人へ通知します。)

これにより空家管理活用支援法人から所有者への働きかけを行うことが期待されます。

空家管理活用支援法人は、市区町村長に対して空き家対策計画の作成の提案や 財産管理人の選任の請求の要請を行うことできます。

空家等管理活用支援法人を指定済みの市区町村一覧(令和6年3月31日時点)

令和6年3月31日時点で以下の8市区町村で空家等管理活用支援法人が指定されています。

空家等管理活用支援法人を指定済みの市区町村一覧(8市区町村)

令和6年3月31日以降も京都市など空家等管理活用支援法人を指定した市区町村は増えています。

まとめ

本記事では「空家等対策の推進に関する特別措置法の一部を改正する法律」の空き家の活用の対策の一つである「空家等管理活用支援法人」についてご説明させていただきました。

空き家が増え続けて問題となっている中で、さまざまな対策が講じられていることをご理解いただけたのではないかと思います。

空家等管理活用支援法人の要件や業務内容に関しましては『空家等管理活用支援法人の指定等の手引き』でも詳しく説明されていますので、ご参照下さい。